1990年代から顕在化してきた若者のひきこもり問題が、解決されず長期化し、中高年になった子と、高齢の親との間で生まれる家庭問題(8050問題)は、社会で広がり続けており、深刻な問題として捉えられています。
その背景には、父親が高度経済成長期にサラリーマンとして勤勉に働き、経済的に裕福な生活を送れた為に、子を中高年まで抱えることができたことにありました。
しかし、親自身が高齢になり、病気や、介護、年金生活などの経済的問題に直面するようになることで、子を抱えられなくなり、自治体へ生活援助の要請することで、このような世帯が世間へ一気に認知されるようになったといいます。
筆者は、これまでひきこもりに苦しむ人達と多く関わっており、ひきこもりに繋がる理由について、特に家族の在り方について重視しています。
本書では、7つの家族の8050問題を直接取材し、家庭問題の現実をありのままに文章化しています。そして、幸せな家族の在り方を知るきっかけになってほしいと伝えています。
本書を読んでみて
ひきこもりの理由は、人により様々ですが、親の考え方や育て方が子どもに与える影響があまりにも大きいことを改めて痛感しました。
時代の変化に合わせた生き方や考え方を受け入れず、古風で凝り固まった概念を子育てに強いるのは、子どもの自立を抑制してしまうだけでなく、社会に出る恐怖を植え付ける結果に繋がってしまう。
もはや、虐待と同等であり、見過ごしてはいけないことです。
親は、子どもの幸せについて客観的な視点で考えることが大切であると感じました。
概要について
全4章から構成されています。
・1章
この章では、4つの家族の8050問題ついてそれぞれ取り挙げています。
1つ目は、ひきこもりの子から家庭内暴力を受ける家族について紹介しています。
2つ目は、親から幼少期に虐待を受け、親との確執を抱えるひきこもりの子について紹介しています。
3つ目は、共依存関係にある親子について紹介しています。
(共依存とは、自分を犠牲にしてまで過剰に相手の世話をして、相手から依存されることに自分の存在価値を見出し、自分と相手がその関係性に過剰に依存して囚われている状態を表します。)
4つ目は、親から主体性を奪われ、人間社会に適応できなくなった子を紹介しています。
・2章
筆者は、ひきこもりに苦しむ人達への支援活動を最前線で実施している方々(2名)への取材を通して、以下のことを伝えています。
①国が進めるひきこもり者に対する支援活動が、当事者たちをより苦しめる結果に至っており、国の活動に対する考え方と大きく乖離していることから、支援活動を幅広く行えない現状があること。
②支援者の力量が貧困状態であり、ひきこもり者に対応できる人が少ないこと。
(ひきこもりと一口に言っても、精神疾患や、発達障害、社会的ひきこもりの3つに区分され、それぞれ支援が異なり、当事者を見極められる力が要求されるといいます。)
③支援活動で重視することは、ひきこもり者同士で触れあえる「居場所」を作り、心を癒し、コミュニケーションスキルを高められる機会を作ること。
(最終的に、親元から離れて、生活保護を利用しながら自分らしく生きていくことを目指しています。)
④ひきこもりに限らず、あらゆる人たちを適応させるではなく、受け入れられる社会を作ることが、8050問題解決に繋がること
・3章
この章では、3つの家族の8050問題と、それぞれのひきこもり当事者が自立をめざす物語をそれぞれ取り挙げています。
1つ目は、世間体に捉われた父親に言葉の暴力を受け続けられ、母親とは、共依存関係にある子を紹介しています。
2つ目は、家族全体が共依存関係にあったことにより、社会に適応できなくなった子を紹介しています。
3つ目は、家庭内暴力で家族関係が破綻し、父親は病死し、母親は家庭を捨てた結果、社会的孤立に陥った子を紹介しています。
・4章
1章の8050問題で触れた、あるひきこもり当事者の後日談を取材しています。
「ひ老会(ひきこもりと老いを考える会)」を定期的に開催しており、40代~50代のひきこもり当事者を集めて、当事者たちのそれぞれの思いを聞きシェアしています。
これは、8050問題に対する見方を増やして、どう対処すべきかについてのヒントを多く模索することを目的に行われています。
本章では、「ひ老会」で語られた当事者4人の話を紹介しています。
本書の魅力について
本書で紹介される内容は、全てノンフィクションであり、8050問題と正面から向き合えます。
ひきこもり当事者や、家族、支援者たちの苦悩、奮闘、葛藤を肌で感じることで、ひきこもり当事者の生きづらさがより一層強調されます。
また、同時に「家族とは何か」を改めて考えられるきっかけになります。
まとめ
今回は、「8050問題 黒川祥子」を取り挙げました。是非本書を読んで、8050問題の現実を知っていただきたいです。
そして、このような問題を発生させないために、家族の在り方を改めて考えれるきっかけになればと思います。
こちらからAmazonサイトで本書を購入できます。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
他の書籍も紹介していますので、是非見ていただけると嬉しいです。