「居場所がない」という言葉は、人々の生きづらさや孤独を表すものとして使われてきました。
驚くことに、世の中には、居場所作りに該当する多種多様なコミュニティが存在するのに、人々は、居場所のなさを「居場所」という言葉で共通認識しているほど孤独で生きづらい生活を送っている。
筆者は、個人の孤独によるものでなく、社会の空気や在り方が多くの人を居場所のない感覚にさせていると考えており、居場所という言葉を考えなくてもよい、孤独でなく窮屈でない社会づくりが必要であることを伝えています。
本書を読んでみて
各章において、テーマとなる部分に触れる際の背景や問題点を論理的に述べており、分かりやすかったです。今後、私たちが目指すべき社会として取り挙げられるべきであると思いました。
しかし、あくまで理想であり、社会の変化に多くの時間が掛かることや、AI技術の進歩に伴い、人の働きが機械に取って代わる時代が加速し、社会がより複雑化する可能性は十分あると思うので、社会の変化を待つよりも、私たち人間が、少しずつでも時代の流れに適応していくことが、今後の時代を生き抜くことに繋がると思いました。
概要について
全8章から構成されています。
・1章
居場所の定義や、居場所つくりの立ち位置の変化について触れています。
子供や若者の支援の目的で提供した居場所つくりが、国の政策レベルまで拡大したことにより、本来の居場所つくりの定義から逸脱し、スプロール化(ある現象が、秩序・目的・意図・バランスを欠いた形で展開していくこと)していった結果、自発的にではなく、誰かによって作られた居場所に変化し、生きづらさを感じる人が増えていることを伝えています。
・2章
アイデンティティの在り方について触れています。
現代人は、他人と比較して優位性を認識することで自己の確立をしており、自分が社会で如何に有能であるかを証明することにエネルギーを割いている為、結果として、自己否定を生み出す過剰競争社会を生み出していることを伝えています。
そして、この状況の打開策として、筆者は、1つ1つの個性の多様性を認め合えるアイデンティティの異化志向に基づいた社会づくりが必要であると述べています。
これは、他人との優劣が無いありのままの自分として存在できる社会、自分の価値のプラス及びマイナスを問われない多様性の承認ができる社会を作ることを示しています。
・3章
若者による学校や社会に感じる生きづらさついて触れています。
時代の変化に伴い、子供の教育に関する家庭や学校での立ち位置の変わり、その状況が不安定なまま教育水準が高まっていった結果、求められる能力に若者が追い付けず不登校児が増加していることを述べています。
他には、学校から社会に移行する時に、個々の能力の優劣性を判断基準とした就職活動が展開される為、「自分らしくいきるための職業」を認識及び選択ができずに、よい企業を目指した結果、離職等のリスクに繋がることを伝えています。
・4章
家族の在り方が変化していることついて触れています。
家族が果たしてきた機能が、外部へ取って代わる機会が多くなることで、家族を持つことへの違和感を感じる人達が増えてきていることを伝えています。
(具体例:食事は、家族みんなで揃って取ることが重視されていたが、最近では、コンビニやレストランで1人で気軽に済ませられるようになった。子育てでは、保育園や幼稚園に子供を預けることが一般化されるようになった。)
他には、結婚制度に関しても触れており、精神的且つ物理的な安定を求めることが結婚の手段に繋がっていると述べており、結婚を望まない人が増えている現代では、結婚しなくても安心して生きている個人単位の社会づくりが必要であると伝えています。
・5章
社会で翻弄する女性の生き方ついて触れています。
「女性は、母や妻といった属性を持つものである」という規範に基づいたコミュニケーションが世の中に浸透している為、結婚や、子育てを経験していない女性にとっては、生きづらさや差別を感じていると述べています。
女性間の格差についても触れています。家庭を持ち、夫や子供を支える主婦としての女性を重視した社会支援(国民年金の第3号被保険者制度)が残っており、収入水準が低い単身者(非正規雇用)やシングルの女性が増えている現代では、社会支援の格差が明確になり、貧困率が上昇していることを伝えています。
他には、女性の社会進出に伴い、子育ての為の保育労働が充実するようになりましたが、賃金水準が低い為、保育労働に従事する女性たちの犠牲の上に成り立っていることについて伝えています。
・6章
社会であたりまえであることに疑問を持ち、声をあげることの大切さについて触れています。
社会は、多数者の都合や利益を中心に回っており、多数者に該当しないまたは多数者からこぼれ落ちた少数者にとっては、生きづらいシステムであることや、少数者は、社会の波に埋もれてしまうことで、認識されない状況が作り上げられて「存在しないもの」として取り残されてしまうと述べています。
少数者が生きやすい方向へ歩んでいく為に必要なことは、安心して対話ができるコミュニティやイベントを立ち上げ、連帯を作り上げていくことであり、社会を変える力を生み出せると伝えています。
・7章
自立して生きることの意味について触れています。
社会では、「働いて稼いで、経済的に人頼らず一人で生きていく」を自立として捉えられていますが、本来の現代社会では、あらゆる他者の行為によって支えられることで成立しており、自立と依存がバランスよく機能していることに注目しています。
他には、非正規雇用者の社会的待遇が弱い点に触れており、社会が求める自立を維持して生きることが困難であり、不平等な状況を生んでいることを伝えています。
個人に自立を強いる生き方ではなく、あらゆる人が少しでも楽に生きていけるような社会づくりが必要であると述べています。
・8章
自分らしくいられる居場所を作ることについて触れています。
自分がやりたいと思えることや、自分が必要であると思えることや、自分が面白いと思えることの場所を作り、その場所で自分を表現していくことにより、同じ価値観を持った他者との出会いが生まれ、他者とのコミュニケーションを通して、多くの人の居場所を形成できると述べています。
そして、そのような居場所が増えることで、今の社会を生きやすくなる人を増やし、社会を変える力にもなることを伝えています。
本書の魅力について
各章において、テーマがとても濃く、正に現代人にとって目指すべき理想の社会の在り方であると納得ができる内容です。
社会を立て直すヒントとして、この書籍の内容は、もっと多くの人に認知されるべきであると思っています。
また、各章のテーマに触れる際に、筆者は、背景となる社会の変化について時系列で説明しているだけでなく、グラフや図解等を引用している為、内容が分かりやすいです。筆者の教育学や社会学に対する勤勉さが大変伝わります。
まとめ
今回は、「孤独と居場所の社会学 なんでもない私で生きるには 阿比留久美」を取り挙げました。
是非一度読んで、現代社会の在り方を模索する旅路を筆者と体験してみてください。
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他の書籍も紹介していますので、是非読んでみてください!
ここまで読んでくださりありがとうございました。