2013年の「いじめ防止対策推進法」の制定より、我が国では、本格的にいじめ問題の解決に向けて様々な対策をしてきましたが、いじめの認知件数の増加に繋がること以外、あまり改善に至っていない状況です。
2023年10月、文部科学省の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸問題に関する調査」より、2022年度の「いじめ重大事態(子どもの生命や心身・財産に重大な被害が生じたり、長期欠席を余儀なくする又は疑いのある状態)」の件数は、年間923件で過去最多を更新しました。
筆者は、いじめ研究の専門家や、教育機関などの取材活動を通して、いじめが事後に明らかになるケースが多いことに注目しており、いじめの不透明性に注意を払うことや、いじめを「芽」のうちに摘み取り深刻化を防ぐ「いじめ予防」を徹底することや、海外に倣い、国内の教育体制を見直す必要性があることを伝えています。
本書を読んでみて
いじめ問題の不透明化が、過去と比べて大きくなっていることを改めて感じました。
本書を通して、個人的に以下の3つの理由が、いじめの改善にブレーキを掛けていると考えています。
①人間の精神性が科学技術の進歩に追い付いておらず、技術を気軽に人の批判に向けて使用している
②少子化社会や、流行病の影響で、同年代の子ども同士で触れ合う機会が減少し、コミュニケーション頻度の減少に伴うストレスを抱え、いじめに発散させている
③人不足の影響で、学校教員たちの肉体的・精神的疲弊を生み、いじめ問題に向ける意識の低下を誘発させている
学校以外の環境(家庭やオンラインで運営する教育機関など)でも、いじめ問題を監視・抽出・教育できるネットワークの構築をすることや、SNSの使用制限を優先的に設けて、いじめの不透明化や、流動化をできるだけ防ぐ体制を整える必要があると感じました。
他には、海外のいじめ予防の授業を積極的に取り入れ、国一丸となって本気に取り組むべきであると思いました。
概要について
全3章から構成されています。
・1章
「いじめ防止対策推進法」を生み出した森田洋司さんの取り組みについて触れています。
★いじめの四層構造の提唱
いじめの流れが発生するときの集団構造を4つに分けています。
⑴被害者(いじめられる生徒)
⑵加害者(いじめる生徒)
⑶観衆(はやしたてたり、おもしろがって見る)
⑷傍観者(見て見ぬふりをする)
観衆と傍観者がキーパーソンであり、加害者を止めたり、仲裁していじめを抑制する立場であることを伝えています。
次に、いじめの実態について触れています。大まか以下の4つを紹介しています。
①いじめに関わる子どもたちの殆どは、「被害者」と「加害者」の両方の立場を経験しており、特定の子供に限らず、誰にでも起こる程一般化している
②SNSを通した「ネットいじめ」が年々増加しており、いじめれるターゲットが短いスパンで切り替わることで被害が流動化している
③教育機関に勤める教員たちは、いじめの一般化と流動化についての認識があっても、問題の不透明性が強く、対応しきれない
④地方ごとにいじめ問題の認知力に格差が起きており、まだ把握されていないいじめ問題が数多く存在していることが推測されている
他には、いじめ問題の早期発見の取り組みについての具体的な措置を紹介しています。
★いじめアンケートの作成(新潟市の学校の取り組み)
生徒は、学校もしくは自宅でアンケートに回答する。いじめに該当する項目に対して、〇×形式で記入を行い、該当する場合には、教員はなるべく即日対応でいじめ解消を目指している。
最後に、2023年10月、文部科学省の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸問題に関する調査」で、2022年度の「いじめ重大事態」が過去最多の結果に至った理由について、いじめの正確な認知が不十分であることを述べています。
大まかに以下の2点を言及しています。
(重大事態:子どもの生命や心身・財産に重大な被害が生じたり、長期欠席を余儀なくする又は疑いのある状態)
Ⅰ.重大事態の約6割は、いじめの認知がされており、そのほとんどの内容は、「軽い冷やかし・からかい」から発展した事例が多く、被害者本人が「大丈夫」と発言したことからいじめに該当しないと軽視されていた
Ⅱ.重大事態の約4割は、いじめ自体認知されていなったが、驚くべきは、内約1.6割が、いじめに該当するトラブル等の情報があったにもかかわらず、いじめが認知されていなかった。教員や周りの人たちの見て見ぬふりが原因であると推測される場合では、真っ先に対策を検討する必要がある。
今回の結果を受けて、2023年4月から「重大事態」の国への直接報告がようやく始まり、文部科学省と全国の教育委員会が協力して、いじめの再発や未然防止に向けて取り組んでいます。
・2章
子どもと家庭にフォーカスした「いじめ」や「ネットいじめ」の予防策について触れています。
実際に取り組まれてている具体的な方法について、スマホ依存からの脱却を挙げており、以下の2点を紹介しています。
①人とつながるオフラインキャンプに参加し、自然と触れ合う時間を増やし、ネットからの生活から離れる習慣を身に着ける
②スマホの購入時に、親子でルールを設定し、継続していくことで長時間のスマホ使用を避ける
次に、教員のブラック勤務問題に伴ういじめ問題の対応力の低下について触れています。
実際に取り組まれている具体的な方法について、教員たちの精神的・物理的負担の削減を取り挙げており、以下の3点を紹介しています。
①教員給与特別措置法に乗っ取らず、月平均残業時間の削減を目指して、ノー残業デーを取り入れる
②IT技術をフル活用して、デジタル教材を使用したり、リモート会議を増やす/いじめの兆候を教員同士で共有できるアプリを活用する
③小学校のカリキュラムの大幅変更を行い、3学期制から2学期制に変更して、毎週の6時間授業の日数の削減し、専科教員の導入をする
上記の対策により、教員たちに心の余裕が生まれ、同僚性や協働性が強まることで、いじめの予防体制のベース作成に繋がることを伝えています。
他には、学校全体で取り組むべきいじめ予防策について触れています。
実際に取り組まれている具体的な方法について、以下の6点を紹介しています。
①いじめ予防の授業を導入して、いじめ被害の深刻さと影響の大きさを子どもたちに伝える
②自己有用感を育むことを目的に、異年齢交流を積極的に取り入れる
③修復的対話の機会を増やして、他者に敬意を抱く態度を養い、人の話を聞く力や、自分の意見を冷静に伝えられる力を身に着け、人間同士の心理的なもつれを防ぐ
④演劇教育を導入し、他者の心情や視点についての理解力を向上させる
⑤有機農業を取り入れて、自然と触れ合い、生物の多様性を感じ、身体を動かす機会を増やして、学校や家庭での生活ストレスを削減する
⑥スポーツ強豪校のブラック部活で実施されてきた体罰やパワハラ指導を止めて、生徒の自主性を尊重する
最後に、社会で取り組むべきいじめ予防対策について触れています。
これから取り組むべき内容について、以下の3点を言及しています。
①メディアの取り組みに関して、いじめの「予防的報道」に力を入れて、過去と同事例のいじめ問題を発生させない為に、兆候や問題点に焦点を当て伝えることを徹底する
②発達障害の子どもを受け入れられる、差別性のない多様性のある社会を作る
③海外の教育制度を学び、取り入れる
・3章
いじめ予防授業や取り組みについて触れています。
実際に取り組まれている事例について、以下に4つ紹介しています。
①ドイツ発の「情報リテラシー教育」で、情報を分析して、咀嚼して、正確に判断する力を養い、論理的に考えを発信できることを目指す
②東京都足立区辰沼小学校で取り組まれている「学校パトロール」で、多くの子どもたちが主体的に「いじめ反対の意思」を目に見える形で周りに示すことで、学校全体に一体感を促す
③いじめ対策先進国である北欧の教育で、いじめの構造の理解と、いじめの流れをロールプレイで体感し、加害者や、被害者、傍観者それぞれの立場の理解を深める。
④オランダの「シティズンシップ教育」で、子どもたちが、いじめの芽に気づき、周りにオープンにするだけでなく、自主的に解決できる力を養う
本書の魅力について
客観的に広い視点で、いじめに対する日本の対応状況をダイレクトに知ることができます。
また、海外で取り組まれている「いじめ予防教育」を紹介しており、今後、日本が多様性に富んだ国に成長する必要があることを伝えてくれています。
まとめ
今回は、「なぜかいじめに巻き込まれる子供たち 川上敬二郎」を紹介しました。
是非本書を読んで、現在の日本のいじめの現状と国の対応状況を知っていただきたいです。
学校の教員や政府に任せればいいと決して他人事のように思わず、1人ひとりが当事者としての認識を持たなければいけないのです。
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他の書籍も紹介していますので、是非見てください!
ここまで読んでくださりありがとうございました。