発達障害の診断には、長い時間や、労力、費用をかけて、丁寧な問診や、診察、発達検査が必要になります。
しかし、診断結果が、障害範囲に該当しない「グレーゾーン(障害者と障害未満者の間の境界範囲)」に至るケースがあり、該当者は、診断結果に困惑し、自分の生きづらさをより深く認識するようになるといいます。
筆者は、グレーゾーンは、単なる障害未満の状態ではなく、「愛着」や「心の傷」が絡んでくることから、発達障害の分野を超えた幅広い知識や、様々なケースに対応できる実戦的な経験やノウハウが必要になると述べてます。
本書では、筆者の経験を基に、グレーゾーン該当者の具体的な症状内容と、対応方法について紹介しています。
そして、グレーゾーンが世間に幅広く認知され、該当者が生きやすい社会を送れることを目指しています。
本書を読んで
障害者と障害未達者関係なく、当事者の特性や個性をきちんと受け止めて、サポートできる世の中にしていくことが大切であると感じました。
その為に、本書を通して1人1人が発達障害について向き合い、理解する必要があると思いました。
概要について
全10章から構成されています。
・1章
グレーゾーンの症状の扱いについて筆者の診断経験を通して伝えています。
以下に3つ紹介しています。
①子どものグレーゾーンの症状は軽いが、年齢を重ねるごとに症状が悪化する傾向にある為、決して様子見だけで済ませず、できるだけ早くから療育やトレーニングを行うことが、予後にを改善することに繋がる
②グレーゾーンには、「愛着」や「心の傷」を抱えるケースが多いため、それらをケアしなければ、該当者の抱える本当の悩みの改善に結びつかない
③グレーゾーンは、該当者の特性や個性を1つ1つ理解する必要があり、一般的な発達障害の診断では、把握しきれないものが多い
・2章
発達障害を持つ特性の1つのであるASD(自閉スペクトラム症)について触れています。
ASDは、1つの行動パターンへの執着やこだわりを持ち、対面でコミュニケーションが取れない特徴があります。
筆者は、DSM(アメリカ精神医学会の精神障害の診断・統計マニュアル)に触れており、ASDの診断基準は、以下の2点を満たしていることが必要とされています。
①社会的コミュニケーション障害
②限局された反復的行動
そして、②については、更に以下の4つの症状に分類され、うち2つ以上当てはまる必要があります。
ⅰ)常同運動
ⅱ)同じ行動や思考への執着
ⅲ)限局された対象への強い関心
ⅳ)感覚過敏又は鈍感さ
筆者は、ⅰ~ⅳについて該当していた有名な著名人や、筆者の診断経験から具体的に紹介しています。
また、ⅱについては、強迫性パーソナリティ障害、ⅲは、強迫性障害についても紹介しています。
(強迫性パーソナリティ障害:責任感や義務感から、「~すべき」という自分の規範に捉われ、柔軟に変更したり、緩めたりできない特徴を持つ)
(強迫性障害:自分でする必要がないと分かっている行動や、考え、心配に捉われ続ける特徴がある)
更に、ASD診断基準には無いが、比較的軽度のトラウマを連続して経験することにより、トラウマ状態に捉われ続けることで、心的エネルギーをすり減らしてしまう偏った執着に陥ることにも触れています。
・3章
社会的コミュニケーション障害(2章 ASD診断基準①)について触れています。
ASDは、2章で触れた診断基準を2つ満たすことですが、どちらか一方基準を満たさない(障害未達レベルである)場合は、ASDとして診断されずグレーゾーンとして扱われます。
社会的コミュニケーション障害は、ASD由来の社会的コミュニケーション障害と、語用論的社会的コミュニケーション障害に大きく分けて2つに分類されています。
後者は、人とコミュニケーションが取れますが、言葉遣いが適切でなかったり、微妙なニュアンスが伝わらないといった事例が発生する為、自身の「個性」あるいは「障害」の2パターンに捉えられる傾向にある為、一概に判断するの難しくグレーゾーンとして診断されやすいといいます。
一般に、ASD由来の社会的コミュニケーション障害は、以下に3つの基準で診断を行います。いずれも満たす必要があります。
①相互の対人的-情緒的関係の欠落
②非言語的コミュニケーションの障害
③社会的スキルの障害
筆者は、①から③について、診断体験を通して具体的に触れています。また、3つの基準を満たす必要がある一方で、軽度の症状が1つでもあれば、グレーゾーンとして扱われやすいため、注意が必要であると伝えています。
他には、コミュニケーション能力はあるのに、人付き合いを避ける特徴をもつ、「非社会性タイプ」と「回避性タイプ」の2つを紹介しています。
このタイプでは、上記の社会的コミュニケーション障害の判断基準①のみ該当するため、ASDとは診断されないケースであり、グレーゾーンとして扱われるといいます。
・4章
知覚統合について触れています。
ウェクスラー式の発達検査により、言語理解、知覚統合、作動記憶、処理速度の4つの能力の指数(IQ指数)を計測できます。
このうち、知覚統合(イメージで考える能力)は、人とのコミュニケーション能力に影響を与えると言及しています。
以下に3つの具体例を述べています。
①周囲の状況や、言外の意味を読み取ったり、語られない意図を察知したり、状況判断したりするとき
②人がどういう状況で伝えようとしているのかを聞き取るとき
③物事を客観的に視たり、俯瞰するとき
他には、知覚統合が低い人について2パターンを紹介しています。
ⅰ)言語力・記憶力が強い共感性に長けたASDタイプ(アスペルガータイプ)
ⅱ)地図・図形が苦手であり、コミュニケーション能力に長けた言語・聴覚タイプ
知覚統合を鍛える方法についても触れており、将棋、オセロ、ボードゲーム、パズルゲームを取り挙げています。
・5章
知覚統合が強い人について触れています。
知覚統合が強い場合では、イメージ力が強いが、共感性に乏しいシステム思考タイプに該当するといいます。
世界で有名な実業家は、上記のタイプが多いことを紹介しています。
・6章
感覚過敏について触れています。
この章では、HSP(不安型愛着型スタイル)と、ASD、恐れ・回避型愛着型スタイルの3つを紹介しています。
①HSP:感覚や、表情、空気に敏感。社会的コミュニケーション障害や、神経機能障害はあまりない
②ASD:感覚過敏だが、周囲の反応には鈍感。社会的コミュニケーション障害や、パターン固執、神経機能障害が強い
③恐れ・回避:感覚や、表情、空気に敏感。更に、人間不信感を持つ。社会的コミュニケーション障害や、執着傾向が強い。トラウマ体験や、軽度のASDがベースにある場合がある
他には、感覚過敏について克服法について触れており、以下に3つを紹介しています。
ⅰ)他者を基準に考える癖を止めるため、第三者の視点で状況を見るトレーニングで、自分の心理的な捉われを手放す
ⅱ)マインドフルネス(瞑想しながら、呼吸や身体感覚に注意を向けて、ありのままに感じる)
ⅲ)薬物療法
・7章
実行機能低下とADHD(注意欠如・多動症障害)について触れています。
実行機能は、情報に基づいて意思決定し、課題を遂行する機能であり、ADHDは、特にこの機能が低下する特徴があるといいます。
また、実行機能は、ウェクスラー式の発達検査で、「処理速度」に該当します。
筆者は、ADHD該当者が、人並み以上に多い仕事のミスがや、依存症で悩むケースを見る中で、意思決定(その場の気分で行動しない)・プランニング(計画的に行動する)能力が著しく欠如していることに注目しており、これらの能力を高めることが必要であると言及しています。
以下に、意思決定能力を高める4つの方法を紹介しています。
①マインドフルネス
②最小最悪意思決定(最善を選ばず、最悪の事態に陥る危険を最小にする方を選択する)
③情報の海に長時間浸からず、心を定期的に隔離する
④信頼できる人に意見を求め、メリットや、デメリットを客観的に知る
次に、プランニング能力を高める方法として、自分で企画及び計画して、それを実際にやってみて、上手くいかないところをを修正するといった1連の流れを繰り返すことを伝えています。
他には、疑似ADHDについて触れており、ADHDとほぼ似た症状が見られますが、気分障害や、不安障害、依存症、過食症の病名が並ぶことが多く、その根底に愛着障害や、愛着トラウマを抱えていることが多いため、生活での困難はより深刻になると述べています。
・8章
発達性協調運動障害のついて触れています。
発達性協調運動障害は、左右の手足を組み合わせて行う運動が、その人の年齢から期待されるよりも、協調運動の進歩が遅く、練習してもなかなか上達せず生活に支障が出る場合に診断されます。
協調運動は、社会性の能力やスキルに関連しており、コミュニケーション能力に深く結びついているといいます。
発達性協調運動障害は、早い段階から発達の課題に気づく重要なサインになるため、トレーニングを通して克服できるだけでなく、社会的なスキルの改善に繋がると伝えています。
・9章
勉強が苦手になる「知的知能」、「境界知能」について触れています。
いずれも勉強が難しくなるにつれて、努力だけで追いつくのが困難になる特徴があり、何より本人や周囲が気づけないことが多いといいます。
結果的に、自分に自信を無くし、ひきこもりになる傾向にあるため、注意が必要であると伝えています。
他には、「学習障害」について触れています。
学習障害は、言葉で考えたり、表現したりすることは苦手ですが、目や、手足、体を使って作業をしながら、感覚的に理解したり、表現することが得意な特徴があります。
また、学習障害の領域に触れており、以下に6つを紹介しております。
①文字の読み:音読が苦手
②分の理解:読解力が弱く、文章の意味を理解ができない
③綴り字の困難:文字を綴ることが困難で、ひらがなや、カタカナ、漢字が正確に書けない。アルファベッドの綴りが覚えられない
④作文の困難:思考を文章化して表現したり、文法的、語法的に正しく表現することができない
⑤数学の理解や計算の困難:数字が何を表しているか理解したり、計算をしたりするのが難しい
⑥数学的推論の困難:問題文から情報を整理して立式したり、パズル的な問題を解いたりするのが困難
更に、「ワーキングメモリ(作動記憶)」について触れています。
ワーキングメモリは、一時的に記憶を保持したり、思考したり、理解したりする際にフル活用される脳内のコンピューターのCPU(中央演算処理装置)と考えられており、知能全般、つまり、読み書き、計算、感情や行動のコントロール、コミュニケーションを通して相手の理解、状況判断等の能力のコア役割を担っています。
このワーキングメモリを増やすことが学習障害の克服に繋がると言及しています。
また、筆者は、ワーキングメモリを鍛える方法についても触れており、以下に4つ紹介しています。
ⅰ)暗唱訓練
ⅱ)ディクテーション
ⅲ)リピーティング
ⅳ)シャドーイング
・10章
筆者は、診断経験を通して、障害者と障害未達者の線引きをするのではなく、本人の特性をきちんと認識し、適切なサポートやトレーニングに繋げることで、本人が生きやすい社会つくりを目指すことが大切であると伝えています。
本書の魅力について
医学的な知識が無くても、発達障害ついて1つ1つ丁寧に解説されているので、読みやすいです。
筆者の診断体験を取り挙げているので、症状の内容について理解しやすいです。
まとめ
今回は、「発達障害 「グレーゾーン」 その正しい理解と克服法 岡田尊司」を紹介しました。
是非本書を読んで、発達障害についての知識を深めて、当事者たちがの生きづらさを少しでも和らげられるような社会を目指してきましょう。
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他の書籍も紹介していますので、是非読んでみてください!
ここまで読んでくださりありがとうございました。