新型の流行病により、私たちは、物理的だけでなく社会的な孤立が避けられないソーシャルディスタンシング(社会的距離の確保)が続くことが想定されていました。
しかし、オンラインでの人とのつながりを強化できる機会が生まれ、働き方、遊び方、協力の仕方を学んでいくことで、互いに支え合いながら孤独を回避できるようになりました。
「社会的なつながりが強化されることで、コミュニティを強固なものにし、個人を守り合える」という一連の流れを世界共通で認識することは、国境を越えた人の絆が生まれ、つながる術を深く追及する契機になり、人類繁栄の更なる発展を促すことになるのです。
本書では、以下の4点を重視して、孤独を乗り越える為の考え方や方法にフォーカスしています。
①人とのつながりの大切さ
②孤独が健康に与える影響
③コミュニティが持つ力
④米国公衆衛生局長官の経歴のある筆者の経験談
本書を読んでみて
以前紹介した[孤独は社会問題 孤独対策先進国イギリスの取り組み 多賀幹子]で、孤独対策としての様々なチャリティー活動を紹介しました。
世界の活動に倣い、高齢者に限らず、患者や若者に至るまで、世間体に縛られないありのままの自分で居られる社会的なつながりが必要であることを改めて痛感しました。
孤独感が健康問題の契機になることに関しては、医学的な根拠は曖昧なものの、社会的つながりに密接している研究結果にはとても驚きました。
「社会的なつながりと孤独(内省)のバランス」が、これからの社会を生きていくうえで重視すべき概念になり得ることを感じました。
概要について
・第1部 孤独を理解する(1章~5章)
・第2部 よりつながりのある人生を築く(6章~8章)
から構成されています。
今回は、<前編>として第1部を取り挙げていきます。
・1章
孤独が健康問題を抱える契機になることについて触れています。
アメリカの人間関係と健康の研究を取り挙げており、社会とのつながりの弱さが、健康に対する大きなリスクになり得ることを以下の研究結果を通して言及しています。
①社会とのつながりが強い人は、弱いい人より早死にする確立が50%も低い
②社会とのつながりの欠如は、1日にタバコを15本吸うのと同じくらい寿命を縮める影響があり、肥満やアルコールの過剰摂取や運動不足よりも大きなリスクになる
③孤独感を抱く人は、相対的に睡眠の質が低く、免疫システムに障害が起きる可能性が高く、衝動的な行動をしがちで、判断力が低くなる
他には、孤独対策として、実際にアメリカの医療機関で行われている活動について触れており、以下の2点を紹介しています。
⑴社会的処方(患者が健全な社会的つながりを構築するための社会資源やコミュニティを紹介する)を提供する
⑵ICU(集中治療室)で死を迎える患者とその愛する人を尊重して、孤独感を癒すプロジェクト「3 Wishes Project」を導入する
・2章
人間の本能について触れています。
人類の進化の過程で、社会的つながりをもつ本能が、狩猟時代から現代に至るまで受け継がれてきており、人と一緒にいる方が心地良いだけでなく、普通であると感じるような仕組みが形成されてきたことを言及しています。
具体的なメカニズムについて、以下の3点を紹介しています。
①他者とのつながりを感じるときは、オキシトシンや、エンドルフィンなどの神経伝達物質が脳から分泌される。一方で、孤独状態になるとドーパミンが分泌される。
②人は、無自覚に他者のことを考えており、周りの人間と関わることで、自分自身を定義する
③新生児は、自分自身の身を守る為、時間経過に連れて家族と同じ人種や民族の顔を覚える傾向が強くなる。(知覚狭小化)
他には、孤独感と身体への影響に関するメカニズムについて触れており、以下の2点を紹介しています。
⑴孤独感を抱えると、交感神経が警戒態勢に入り、エピネフリンなどの神経伝達物質が分泌され、全身が自己保存に尽力する状態に変化する。この変化が、身体に強いストレスを与えることで、心疾患を引き起こしやすくなる
⑵孤独感を抱えることにより、覚醒状態が強まり、夜中に何度も深い眠りから覚める状況が続き、睡眠の質の低下を引き起こす
他には、孤独感を抱える人は、危険物質(オピオイドやアルコール等)の依存傾向が強いことについても言及しています。
・3章
世界の社会的つながりに関連する伝統や文化について触れています。
その街の文化や伝統が、自分の社会生活に沿わないとき、孤独感を感じる傾向にあると述べています。
社会的つながりを持つ集団に属していても、時代の変化に伴い、外部との繋がりが薄くなり、孤立しやすい状況に陥ることを危惧しています。
以下の2点の社会集団を紹介しており、そこから離れた人のそれぞれの孤独感と教訓を紹介しています。
①キリスト教アナバプテスト派の流れを汲むフッター派
②KKK(クー・クラックス・クラン)
一方で、個人の自由を維持し、自分の願いや要望に応じて他者と交流できる社会的つながりを形成したコミュニティにも触れており、以下の3点を紹介しています。
⑴親切心を基盤に、1人ひとりの個性をサポートしながら帰属意識を育んだアメリカ合衆国のカリフォルニア州都市「アナハイム」
⑵世界で100歳を超えて生きる人の割合が高い「ブルーゾーン」の中で、とりわけ社会的なつながりが強い集団として知られる沖縄県「模合」
⑶職場を引退した男性を対象に、生産的な作業に取り組み、ネットワークを形成し、孤独感を解放して人生を楽しむ目的に形成されたコミュニティであるオーストラリアのマクシーン「男たちの小屋」。現在では、世界中に広まり、世の男性たちに恩恵をもたらしています。
他には、人間の本能と変化する社会との間に乖離が発生していることについて触れています。
文化や伝統に縛られない1人ひとりが帰属意識を持てる集団的要素(人間関係、コミュニティ組織、近隣地域、社会・文化機関)に力を入れていく必要があることを伝えています。
・4章
その他の孤独感について触れています。
テクノロジーの進化に人の精神性が追い付いていないことが孤独感を抱えるに至ることに注目しており、以下について言及しています。
SNSの使い方について触れており、オンラインの中継ステーションとして使用することでオフラインで人とつながる機会を生み出す側面で大きなメリットがある。
しかし、依存目的で利用する場合では、様々な人の投稿に触れる中で、自分と他人を比較してしまい、結果的に自己肯定感を下げ孤独感を抱えるデメリットが生まれる
他には、孤独感が伴う社会について触れており、筆者が関わってきた様々な人の体験を通して、以下の4点を紹介しています。
①新しい文化や言語に馴染めず生きづらさを抱える海外移民・国内移民について
②お一人向けのサービスを提供する孤独経済について
③孤独感を抱える高齢者について
④外見や、価値観、趣味が似た人とだけつながる習慣が生まれることで、異なる価値観をもつ集団を受け入れず、やがて批判や争いに発展する分断社会の形成について
・5章
孤独感の克服ついて触れています。
孤独感を隠して生きることに限界を感じ、アルコールや薬物依存に手を染めたり、反社会勢力に所属したり、犯罪を起こして刑務所生活を経験した人たちを取り挙げています。
その後、当事者たちが社会的つながりを持つことで、社会復帰を遂げるだけでなく、自分の生きがいを見出すまでのエピソードを紹介しています。
これらのエピソードを通じて、奉仕活動に注目しています。
目的を見つけて、他人と協力して何か大きなポジティブなことを成し遂げることは、社会的なつながりを体感できる最も効果のある活動であると言及しています。
また、奉仕する側とされる側の双方に幸福感を与えることも述べています。
本書の魅力について
前編では、孤独感が人に与える影響について、多面的な視点(医学、人類進化、伝統・文化、教育等)でフォーカスしており、社会的つながりを持つことが、今後生きていく為に必須であることを理解できます。
傍観者ではなく、当事者として1人ひとりが世の中に目を向けて、孤独感を「身近で誰もが抱える問題」として認識する機会を与えてくれます。
まとめ
今回は、「孤独の本質 つながりの力 ヴィヴェック・H・マーシー <前編>」を紹介しました。
本書を読んで、孤独感がもたらす様々な影響について知る機会となれば嬉しいです。
次回は、後編として第2部を取り挙げていきます。
こちらからAmazonサイトで本書を購入できます。
他の書籍も紹介していますので、是非見ていってください。
ここまで読んでくださりありがとうございました。