高齢者化社会に伴い、老人ホーム等の養護施設や、介護職が充実し、高齢者の安全や安心を守り続けてきました。

しかし、世間が認識する高齢者に対する死生観と高齢者が抱いている死生観との間で大きな乖離が発生しており、他人の良かれと思った行動が、高齢者を孤独に追いやることに繋がる場合があります。

筆者は、医療・介護現場で高齢者たちと触れ合う中で、「高齢者が、どのように生きることが幸せなのか」について探求しており、改めて死生観の認識を見直すときであると伝えています。

本書を読んでみて

筆者の実体験を通じて、高齢者自らが死生観を選択する権利を持つことは大切であり、もっと多くの人が認識すべきだとを改めて認識しました。

患者の意思を受け入れ、医師が治療を途中で止めることは、世間では、医師としての在り方を問われ、批判されますが、患者が少しでも生きることに幸せを感じる時間や環境を見つけることこそが本当の治療であると思いました。

概要について

全5章から構成されています。

・1章
うらやましい孤独死について触れています。

老人ホームや病院に入ることを拒み、自宅で孤独死を迎えた高齢者たちを取り挙げており、高齢者たちが抱く死生観に従い生涯を全うできれば、それは、本人たちにとって幸せな人生であると述べています。

その実現の為には、親族や周囲の人が高齢者の生き方を尊重することや、何よりも本人が訪れる死に向き合う覚悟を持つことが大切であると伝えています。

・2章
筆者が、医者としての道を歩んでいく中で人生を変えるきっかけとなった経験・体験を述べています。

地域密着型で住民と幸福を追求する地域医療の理念に共感し、北海道の夕張市にいる村上智彦さんの下で地域医療について学んだことについて触れています。

(補足:北海道の夕張市は、2007年の財政破綻により医療機関が大幅縮小されました。筆者は、2009年に夕張市へ向かい、「夕張希望の杜」という医療法人を設立し、地域医療体制の構築を目指していた村上智彦さんの下で、4年間地域医療について学びました。)

そして、4年間の夕張の生活の中で、高齢者は、皆自分で人生の選択をしていることや、24時間体制の在宅医療や訪問看護が充実していることや、高齢者を支える地域の人達との繋がりが厚いことを認識しており、高齢者を支える医療・介護に特化していることに注目しています。

他には、日本の病院特有の収益確保のための患者集め(集患)について触れており、医療の市場化により、高齢者の意思を無視し、孤独に追いやることや、国家財政の圧迫に拍車が掛かることに繋がるため、医療機関の運営の在り方を改めて見直す必要があると伝えています。

・3章
患者の意思を尊重することについて触れています。

医学的正解や、医師としての判断を重視するよりも、患者が少しでも幸せに過ごせる時間や環境を模索することが、残りの人生の充実度・満足度を高めることに繋がると伝えています。

他には、認知症を抱える高齢者の訪問介護について触れており、記憶の保持が困難なことによる行動を「問題行動」として認識され、一般に、施設に収容又は隔離する状況に至る場合が多いと述べています。
そこで、高齢者と介護者との人間関係や信頼関係の構築を重ねた結果、収容又は隔離のコストが不要になるだけでなく、認知症高齢者が元気を取り戻すことに繋がったことを実例(神奈川県藤沢市「あおいけあ」介護施設)を取り挙げながら述べています。

・4章
社会的に繋がりを持ち、孤独を避ける必要があることについて触れています。

高齢者の介護施設の入居に伴う社会的孤立には、医療的ツールでは対処しきれないと述べています。
社会との繋がりを通して、人間関係や信頼関係の構築が必要になってくると伝えています。

イギリスの医療体制について取り挙げており、患者に対して、医師は、「社会的つながり」も処方することが法律で決まっていることに注目しており、リンクワーカー(患者に社会的資源を紹介して繋げる人)を通じて患者の社会的孤立を防ぐ体制を整えていることを伝えています。

・5章
親しい人との日常的な繋がりが高齢者にとって本当に必要なものであることを伝えています。

病院や介護施設では、患者の治療や管理が優先され、社会的な孤立の危険性はあまり重視されていないと述べています。

また、社会的孤立の改善に向けて実際取り組んでいる団体を紹介しています。

本書の魅力について

筆者の医師としての実体験がそのまま書かれている為、患者と向き合う筆者の悩みや覚悟を身近に感じられます。

今後、超高齢化社会に直面することが予想される中、「もし自分が高齢者になった時に、どう生きていけばいいか」という人生観を模索するヒントに繋がる書籍です。

まとめ

今回は、「うらやましい孤独死 森田洋之」を取り挙げました。

是非本書を読んで、筆者の実体験と共に、高齢者にとっての幸せな生き方について考えられる機会になれば幸いです。

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他の書籍も紹介していますので、是非読んでみてください!
ここまで読んでくださりありがとうございました。