世界で初めて孤独担当相を創設したことで知られるイギリスでは、孤独に対する思いやりの心を多くの国民が保持しており、弱者に対して、大小問わない様々な社会的支援を主体的に実施しています。
しかも、政府の孤独担当相創設の有無に関係なく、既にこうした活動が国民全土に浸透しているのです。
コロナ禍では、政府の医療ボランティアに約75万人が参加表明をしており、イギリス人が抱く、思いやりの心とその大きさを世界へ伝えていました。
筆者は、イギリスでの取材を通して、コロナ禍で加速した日本の孤独問題の解決に向けて、イギリスの慈善活動から孤独対策を学び、取り入れる必要があることを伝えています。
本書を読んでみて
イギリスの社会的弱者に対する支援への意識が極めて高いことに驚きました。
また、王室による慈善活動の支援が背景にあることで、国が一丸となって活動していることに感心しました。
他には、ギャップイヤー制度を日本に幅広く普及させるべきだと思ました。
イギリスのような日本にない長所を持った伝統や文化に触れる機会を持つことで、高齢化社会や、孤独死など、今後日本が抱える問題に対して、少しでも良い方向へ舵を切れるヒントを見つけることに繋がると思いました。
概要について
全6章から構成されています。
・1章
大まかに3つの内容について触れています。
①孤独担当大臣の創設からのイギリスの政治情勢について
孤独問題に大い貢献したジョー・コークス下院議員を紹介しており、彼女の死後、遺志を受け継いだ英国議員たちが、孤独対策に関する政策を立案及び策定するまでに至りました。
2018年10月「孤独についての会議」で、孤独を国家レベルの健康問題として捉えた声明は、世界から大きく注目されました。
②他国の「孤独が及ぼす問題」の認識と対策について
アメリカ、オーストラリアを紹介しています。
アメリカでは、慢性的な孤独状態に陥る場合では、動脈硬化、循環器疾患、神経変性疾患、転移性がんを患うと警告しており、肥満や、薬物乱用に匹敵する公衆衛生上の問題になると認識しています。
オーストラリアでは、孤独対策として「カドル・パーティー」を紹介しています。
これは、様々な年齢層の男女がリラックスした状態で密着し合い、手を繋ぎ合うなどの物理的接触を保ちながら、相手に称賛や敬意を伝え合うものです。
もう一つの対策として、「メンズ・シェッド」を紹介しています。定年退職した男性を対象に、DIY等の通じて社会貢献活動を行うコミュニティであり、現在は、イギリスやアイルランドまで普及しています。
③イギリスでの様々な孤独対策の取り組みについて
英国政府の孤独対策の政策の有無に関わらず、国民が主体的に取り組んでいる内容を紹介しています。
「コスタコーヒーでのおしゃべりテーブルの設置」、「オープン・マイク」、「ウォーキングサッカー」の3つを紹介しています。
・2章
高齢者向けのチャリティー団体の活動内容について取り挙げています。
大まかに3つの団体の活動内容を紹介しています。
①ageUK
「ビフレンディング・サービス」がよく知られています。主に、「テレフォン・ビフレンディング」と「フェイス・トゥ・フェイス」の2種類があります。
「テレフォン・ビフレンディング」は、シニアと共通する趣味や、関心を持つボランティアが定期的に電話を取り合う活動です。
「フェイス・トゥ・フェイス」は、シニアとボランティアが顔合わせをして、シニアの住居で一緒に雑談をしたり、シニアが興味を持っている趣味や、関心に関係するコミュニティを紹介する活動です。
他には、多くのボランティアの募集をしており、キャンペーン関連や、ショップ関連、ageUK自体のサポート関連といった内容は多岐にわたります。
②サマリタンズ
自殺を考えている人の救済を目的とた無料電話サービスです。その後、高齢者に特化した電話サービス「シルバーライン」を立ち上げました。
③Alive Activities
「老人ホームで暮らす高齢者が、外部の社会と密接に繋がり、個人として価値のあることを認識してもらう。ダイナミックな行動を促し、創造性を養ってもらう」ことをテーマに、ユニークな活動を行っています。
「Wishing Washing Line」プロジェクトでは、高齢者の願いを叶えることを目的としています。ここでは、「逮捕されてみたい」という高齢者の願いを叶える為、地元住人や警察官を巻き込み大きな反響を呼んだ話を取り挙げています。
筆者は、高齢者とボランティアとの間の絆が強くなる中で、高齢者とボランティア双方に生きる喜びを感じていることに注目しており、コミュニティへ所属し活動することが孤独を和らげることに繋がることを取材を通して伝えています。
・3章
王室のチャリティー活動を取り挙げています。
イギリス王室は、無数のチャリティー団体をパトロン(支援者)として主体的にサポートしています。
王室が、熱心に慈善団体の援助に取り組む姿を国民に見せるこことで、社会的弱者へのボランティア精神及び活動を国民に幅広く浸透させることに繋がっています。
本章では、エリザベス女王、チャールズ皇太子、ダイアナ妃、カミラ夫人、キャサリン妃、メーガン妃の7人を中心に、チャリティー活動を紹介しています。
・4章
イギリスの道徳観「ノブレス・オブリージュ(高貴なものの義務)」について触れています。
これは、「自分が恵まれた状況でいるなら、恵まれない者の為に活動する」という意味を表しています。
イギリスでは、この道徳観が根強く浸透しており、大学生は、一般的に入学前に1年間を使って、仕事や、旅行、ボランティア活動を行うギャップイヤーを取り入れています。
この経験により、自主性が養われ、適応力が高まり、視野が広まるといいます。(日本では、一部の大学で取り入れられている状況です。)
筆者は、日本でもギャップイヤーを普及させるべきであると伝えており、家族内で助け合いを完結させる文化に縛られず、どんな弱者にでも積極的に手を差し伸べられる日本人を多く育てる必要があると述べています。
・5章
筆者が、ロンドンの街を歩く中で、弱者に対する思いやりが見られる部分を取り挙げています。
暮らし全体を弱者目線で捉えていることに注目しており、弱者にやさしい社会が作られていることを伝えています。
・6章
イギリス社会での社会的弱者に対する様々な配慮や、支援が日常に溢れていることを伝えています。
本書の魅力について
筆者が、イギリスでの取材を通して、「慈善活動の内容」や、「王室の歴史」、「ロンドンを含めた市街の弱者支援への取り組み」を詳細に紹介している為、非常に興味深い内容で、日本にはない英国独自の素晴らしい文化を身近に感じることができます。
日本にも取り入れるべき慈善活動に触れており、「社会的弱者対策の先進国 イギリス」を実感できます。
まとめ
今回は、「孤独は社会問題 孤独対策先進国イギリスの取り組み 多賀幹子」を紹介しました。
イギリスの社会的弱者支援への本格的な活動内容を、是非本書を読んで知っていただけると嬉しいです。
こちらからAmazonサイトで本書を購入できます。
他の書籍も紹介していますので、是非読んでいってください!
ここまで読んでくださりありがとうございました。